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第17話 直日神との契り

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-06-11 18:00:17

 化野護は項垂れていた。

 ベッドに降ろした瞬間、直桜が眠ってしまったからだ。

「こんなに酒に弱かったとは。あの日、自分で帰ってこられたのは、奇跡ですね」

 友人にキスされたと打ち明けてくれた日の直桜も酔っていた。

「邪魅は近寄っただけで打ち消してしまうのに、アルコールには勝てないなんて、とんだ神様です」

 親指の腹を唇に滑らせる。

 熱く湿った粘膜が指に吸い付く。

 ゾクリと背筋がざわめいて、指を離した。

「さすがに寝込みを襲う気には、なれませんね」

 すっかり鬼化も解けて、滾った熱も落ち着いた。

 キッチンに置いたままの眼鏡を取りに行こうと立ち上がりかけた時、直桜の手が護の服を掴んだ。

「直桜? 起きました、か……」

 のっそりと起き上がった直桜の顔が緩やかに笑んで、護を眺めていた。

「酒は古来より神が好む。どんな毒も薬も直桜には効かぬが、酒は良いものだ。酔う心地よさは教えてやらねばな」

 表情も、話し方も抑揚も、全部直桜ではない。

 別の誰かが話しているのだと、すぐに感じ取れた。

「貴方は、誰、ですか」

「直桜の中に居る神は一柱。直桜を守り、直桜に守られる神ぞ。滅多に表には顔を出さぬが、話をしてみたくなったのよ。懐かしい、化野の鬼とな」

「直日神……」

 護はその場に、座り込んだ。

 直桜の顔をした神様が、護の前にちょこんと座る。

「それで、どうだ? |己《うぬ》は直桜を今生を掛けて守る気になったか?」

 突然の問いかけに、動揺を隠せない。

 

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